最終話

 

 

「なんでおしえてくんないんだよ!」
 バカジの涙声は、耳元で聞こえた。
 な、ななななな、何だ、コレは!?
 コレじゃ、抱きとめられてるんじゃなくて、抱きしめられてるんじゃねぇのか!?
 ちょっと待て。しかも泣くな。
 お前がオレのことで、泣いてるんじゃねぇ!
「放せ、こら!」
 じたばたと暴れついでに、わき腹に一発食らわせる。
 いつもならそれで離れるのに、今回は逆に力任せにしがみついてきた。
 何なんだよ、お前は…勘違いしたくなるだろう、オレが。
 お前がオレのこと好きなのかとか、都合のいいことを思いたくなるじゃねぇか。
 う〜う〜と唸ってる声やら震えている肩やらで、一応我慢しているらしいのは、わかる。
 知らないとはいえ、なんでこんなに無防備なんだよお前は。
 まったく。眼鏡でもいいからしてくれば良かった。顔が見えれば少しは、わかるのに。
 それでも、こんないい目にあえたんだから、無理を押してでも走った甲斐はあったってものだ。
 だから。
 全部終わらせよう。
 ホントの気持ちを告げて。

 


「なんでお前が泣いてるんだよ」
「おまえが泣かないからだろっ」
「おい、顔上げろよ…」
「やだっ」
「…なぁ、もう泣くなよ」

 

 


「大好きだから」
「好きだ」

 

 


 ぱっと顔上げたら、陣の顔がドアップでビビった。
 陣も驚いたような顔してた。こんな顔、見たことない。
「本気、か?」
「陣こそマジ?」
 本気だ、って言うのが目線で通じた。
 その途端、またぼたぼたと涙がまた零れ出した。
「だから、泣くなって」
「う〜〜〜っ、だってさぁ、俺達両思いなんだろ?」
「そういうことになるな」
「だったら、もう俺から離れるなよな。約束だぞっ!」
「当たり前だろ。っていうか、お前泣き過ぎ」
「だってさ、コレは二人分の嬉し涙なんだぞっ!陣の分も俺が泣いてるんだからな!感謝しろよなっ!」
「……んだよ、ソレ」

 


 レースの時は、ゴール地点の白いテープを目指してた。
 今夜のレース……陣っていうゴールの白いテープは、真っ赤なテープに変身したんだ。
 めっちゃくちゃ輝いてて、めっちゃくちゃ幸せな色。
 もう離れらんないように、真っ赤なテープをぐるぐると二人分の身体に巻きつけてやる。

 


 ――― 約束、守れよな。

 

 

end