「翔っ、かけっこ一番だったんだってな」
「うんっ!にーちゃん、俺ねっ、リレーの選手にも選ばれたんだよっ」
「すごいな〜!翔は。にーちゃんの自慢の弟だなっ」
年の差が離れたにーちゃんは、俺が一番を取る度にすげー褒めてくれた。
俺の言うことなんでも聞いてくれるし、優しいし、俺はにーちゃんっ子だった。
でも。
そのにーちゃんが転勤で県外に飛ばされてしまった。
淋しかったけど、高校生にもなって「にーちゃんがいなくて淋しい!」なんて言えないから、学校ではいつも通りにバカやってた。
走ってる間は忘れられるし、弱いトコ見せたくなかった。
―――それなのに。
「お前、なんかあった?」
同中の奴らは気付かなかったのに、出会ってまだ一ヵ月くらいの奴に見抜かれた。
俺にバカジってアダ名をつけた、陣だ。
「なんもねーよ」
「ふーん?」
「なんもねーってばっ!」
「わかった。何もねーんだな」
「……う、うん」
「なら、離せ」
「あ」
俺は無意識のうちに、陣のジャージを掴んでた。
「ご、ごめんっっ」
慌てて手を離すと、陣は俺の背中をバシッと叩いた。
「バカジはバカジらしくしてりゃいいんだよ」
それ聞いた時、俺はコイツになら甘えてもいいんじゃないかなって思えた。
「じーーんっっ」
なんかすげー嬉しくなって陣にガシッと抱きつくと、今度は脇腹を殴られる。
「いってぇ〜」
「犬か、お前は」
「うーー、わうっ」
「バカ犬」
「ほらそこの二人っ!いつまでじゃれてんのっ」
「やべ、あーちゃん先輩だっ」
「バカ犬のせいだからな」
「バカ犬じゃないっ!」
俺が陣に甘えるようになったのはココが始まり。
『翔、にーちゃんいなくて淋しくないか?大丈夫か?』
「大丈夫だよ、にーちゃん。あのねっ、俺の面倒見てくれる奴が出来たんだっ」
『え?!』
「だから、にーちゃん心配しなくて平気だよ」
『…………』
「あれ?にーちゃん?」
『にーちゃん、余計心配になっちゃったよ……』
「う?」
なぜかにーちゃんが心配性になったのもココが始まり。