「なぁ、加地。合コン付き合わね?一人足らねーんだわ」
更衣室のシャワー浴びてたら、ひとつ上の早島先輩に声かけられた。
「すんませーん!俺パスっす」
「なんだよ、最近付き合い悪りぃなぁ」
「約束してるんすよ〜」
約束、約束。
今日はこれから陣の家に行くんだもんねっ。
俺が見たかったDVDを一緒に見るんだもんねっ。
う〜〜、楽しみっ。
「じゃ、お先っす!……ぐぇっ!」
かけ足で出ようとしたトコを早島先輩にスリーパーホールドかけられた。
「ぐ、ぐるじぃっすよぉぉ」
「今夜の合コンには、お前の好きな巨乳ちゃんも来るんだぞ。それでもいかないってか〜?」
あー…巨乳好きって言ってた事もあったっけ。
好み聞かれてもよくわかんねーから、ずっと巨乳って言ってたんだよなぁ。
「も、う、きょにゅーは、いいっすぅぅぅ」
「この贅沢モノめ!」
「せ、せんぱい、もう離してよ〜」
「さては女が出来たんだろ!白状しろっ!」
「おんな、いないぃ〜」
彼女はいない。嘘ついてない。
「吐いちまえば楽になるんだぜ」
大好きな恋人がいるっ!って言いたいけど、もったいないから言いたくない。
首を絞める腕の力は緩んだけど、まだ離してくれそうもない。
早く陣の家に行きたいのに〜
「早島先輩、ストップ」
困ってる俺を涼が助けに入ってくれた。
「なんだ、涼」
「コイツの迎え来てるんで」
「へっ!?陣来てんの!?」
涼が無言で「あっち」と親指で教えてくれた。
あっちを見ると、フェンスの向こう側で腕組みしていかにも不機嫌そうな陣が立っていた。
こっ、怖ぇぇ……!
「なんだよ、男か」
つまんね〜と言いながら、早島先輩の腕が離れた。
涼がそっと俺に耳打ちしてくる。
「さっきからずーっとあんな感じだぞ。早く行ってやれ」
「う、うんっ!じゃ、お先っす!!」
階段をダッシュで上って、陣のトコに駆け寄る。
「陣っ!迎えに来てくれたんだっ」
「……誰、アレ」
うっ、声が低いっ。
「えと、一個上の早島先輩」
「ふーん……」
ううっ、目が怖いっ。
ふいっと背を向けて、陣が歩きだした。
「待ってよ、陣〜」
「早くしろ」
いつもより早いペースで歩く陣。
かなり不機嫌っぽい。
家に来るな、って言われなかっただけマシかも。
「陣っ、これっ」
むす〜っと座ってる陣にDVDのパッケージを見せる。
うわ、反応ねぇ……
そろそろと陣に近付いて、つんつんと体を突いてみる。
「ね〜、陣ってば〜」
ぐいぐいと服を引っ張ったら、やっとこっちを見てくれた。
にへっと笑ってみたら、陣がはぁっと溜息ついて俺の体を引き寄せた。
「…お前は隙だらけなんだから気を付けろ、バカ」
「む?」
「わかってねぇだろ」
「う……」
陣の言ってることよくわかんねーけど、俺は陣とくっつけてご機嫌になってた。
「なにニヤニヤしてやがる」
「えー、くっついてるからに決まってるじゃん」
「人の話はスルーかよ」
「聞いてるってば。んーと……」
俺がすきだらけって言ってたよな。
すきだらけ……なんだから。
「俺が陣を好きだらけって事だろ?」
そう言ったら、陣は「は?」って顔した後に笑いだした。
「なんで笑うんだよー?」
「やっぱてめぇはバカジだな」
「やっぱってなんだよ、やっぱって!」
ふくれてみせたら、ますます陣は笑いやがった。
なんでこんなに笑ってんだかわかんねーけど、陣の笑い顔好きだからいいや。
好きだらけだから、しょうがねぇじゃん。
DVDはまた次に遊びに来る口実にしよう。