悪役上等!

 

 

 ここんトコ、俺は調子が悪い。
 タイムが落ちてる訳じゃないから、人はそう思ってねーだろうけど。
 何かこう、張り合いってヤツがない。
 かわいい後輩と親切な先輩。
 不満っていう不満はねぇ。
 ただ、テンションがだださがりなだけで。

 


「あ〜、何かたりぃんだよなあ」

 


 ぼやいたら不思議そうな顔をされた。
 コイツもなぁ、悪いヤツじゃねぇけど、もの足りねえ。

 


「記録出して、期待されて、女も不自由なくて、何が不満よ?」
「だよなあ」

 


 イヤミだぞお前〜、とか言われてもな。
 何かこう張り合いがなあ。
 こないだネーサンと会ったのは、久々にいい感じだったけどな。
 あ。

 


「わかった」
「何が」
「足りねーモン。相手だ、相手」
「はあ?」

 


 ライバルとか恥ずい表現でもいい。

 


「俺に歯向かうヤツがいねえ」
「あー、まあな。でもいいんじゃねぇの?」

 

 
 平穏無事でさ、とか言いやがって。

 


「良くねぇよ」

 


 歯向かってくる相手を、徹底的に叩き潰す。
 あの快感。
 過程のやりとり含めて、アレほどおもしれーモンねぇだろ。

 


「二個イチだけど、居てるじゃねえか、手頃なのが」

 


 喉の奥でくくく、と、音がなる。
 走るのにもプライベートにも、ちょうどいい。

 


「うわ〜、悪い顔してるねぇ。悪役だぜそれじゃ」
「悪役?上等じゃねえか。人生楽しく、思うがままに、だろ」

 


 はっはっは〜、いいぞコレは。楽しくなりそうじゃん?
 俺の視線を追って後輩の姿を確認したヤツは、大きく溜め息をついた。

 


「すんげーマントでも、用意してやろうか?」
「おう。ラス・ボスににピッタリなすんげーヤツな」
「ラス・ボス、ねぇ」

 


 よーし、楽しくなってきたぜ。期待してやってるんだ、応えろよ。
 後輩の加地とフェンス越しに話ている“陣”の二人をロックオンして、俺は笑った。

 

 

end