メールで遊んじまえ!編 3

 

 

 カウンターキッチンで、じーっと飯を待つバカジに苦笑。
 だから。オレがお前の食えない物を、出すわけがないだろ。
 辛い物が苦手でも、大丈夫なキムチチャーハン(親たちで毒味済み)を仕上げると、お預け状態の目の前におく。

 


「ほらよ」
「陣は?」
「食った」

 


 つーか、作ったら腹減らねえ。
 親たちの分も作ったし、味見したしで、もう十分。
 ちょっと手を加えたカップスープで、あとはいいだろ。

 


「いっただっきまーす」

 


 音符の飛んでそうな勢いで手をあわせてから、バカジは飯をかっくらう。

 


「どうよ?」

 


 バカジの前に水。自分のコーヒーを持って、隣のイスに座る。

 


「むひひ〜う」

 


 何か言いながら食ってるし。
 手が止まらないトコを見ると『おいしい』かな。
 まったく。
 コレが見れたからいいとは言っても。
 どうせここに寄って何か食ってから帰る、とは言っても。
 釈然としねえ。
 理由なんて考えるまでもない。
 早島、あのヤロウだ。

 


「陣さあ、もしかして早島先輩の事、嫌いなのか?」

 


 半分ほど一気に腹に納めて、落ち着いたのか、思いついたようにバカジが言った。
 珍しく鋭いな。

 


「嫌いではないけど、好きでもないな」
「あの人、ちょっと困った人だけど、イイヒトだぜ?」
「オレ、あいつのことよく知らねぇし」
「ウチのエースなんだって。走りもすげーけど、普段もさ。いろんなこと、さくーっとしちゃうんだって」
「ほうほう」
「聞いてねぇだろ」
「聞きたくねぇし」

 


 む〜、とバカジが黙り込む。
 オレが同意をしないから、かな。
 どれだけイイヒトですげー人かなんて、言い募られたら尚更腹が立つっての。
 あいつの走りなんて高校時代にイヤってほど見せ付けられたし。
 今でも走ってるのとか、オレより背が高いのとか、ムカつく要素なんてありまくりだ、バカ。
 何より腹が立つのは、あいつがお前で遊んでるってコトだ。

 


「お前、携帯見たのか?」
「う?」
「送信履歴」
「いや?何で?」
「あ〜、じゃ、いいよ」
「ならいいけど。ゴチソウサマ、うまかった」

 


 他人に使わせて、確認もしないなんて。
 オレには考え付かないことだけど、コイツにとっては大したことじゃないらしい。
 信用してるから、なのかも知れないけど。
 もひもひとチャーハンを腹の中におさめきってから、バカジは携帯を出してきてぽちぽちと、操作し始めた。

 


「ぅわーっ?!何だこれっ先輩何するんだ〜?!」

 


 皿を引いて洗っていたら、そんな声が。
 やっと気がついたのか、バカ。

 


「ええ?!陣、これ、知ってたのかよ?!」
「知ってたってなんだよ?まさしく、それが送られてきたんだ」

 


 オレのムカつきに気がつきやがれ。

 


「また〜、もう、変顔の写真、いっぱい撮られるんだよな、あの人に!」

 


 ほうほう、そうかよ。

 


「“ひとのけいたいでなにしてるんすか〜”っと、送信」

 


 …。
 まて。
 今の口ぶりだと、しょっちゅう遊ばれてる…訳だよな?
 こいつの反応が楽しくてやってるなら、もう、充分に堪能してる筈…だよ、な?
 それを。
 わざわざ、オレに送ってきたってことは。

 


「“ビックリさせられただろ?”何だと〜先輩め〜っ」
「バカジ」
「何?」

 


 早島にメールを送っているバカジに声をかけたら、ちょっとビビってた。
 ああ“オレといる時に携帯メールするな”とか、そこまで心の狭いことは云わねぇよ、バカ。

 


「お前、何て云って携帯渡したんだ?」
「え〜と、陣をビックリさせたいけど、いいのが思いつかないっていった」

 


 ……。
 くそう。
 オレ、か。
 思いついて歯噛みをする。
 ついうっかり乗せられちまった。
 コンチクショウだ。

 


 あいつがからかいたかったのは、バカジだけじゃねえ。
 オレ込み、だ。

 


 ホントにムカつくあのやろう。

 


 気がついたオレは、皿を割らないように洗うので精一杯だった。

 

end