カウンターキッチンで、じーっと飯を待つバカジに苦笑。
だから。オレがお前の食えない物を、出すわけがないだろ。
辛い物が苦手でも、大丈夫なキムチチャーハン(親たちで毒味済み)を仕上げると、お預け状態の目の前におく。
「ほらよ」
「陣は?」
「食った」
つーか、作ったら腹減らねえ。
親たちの分も作ったし、味見したしで、もう十分。
ちょっと手を加えたカップスープで、あとはいいだろ。
「いっただっきまーす」
音符の飛んでそうな勢いで手をあわせてから、バカジは飯をかっくらう。
「どうよ?」
バカジの前に水。自分のコーヒーを持って、隣のイスに座る。
「むひひ〜う」
何か言いながら食ってるし。
手が止まらないトコを見ると『おいしい』かな。
まったく。
コレが見れたからいいとは言っても。
どうせここに寄って何か食ってから帰る、とは言っても。
釈然としねえ。
理由なんて考えるまでもない。
早島、あのヤロウだ。
「陣さあ、もしかして早島先輩の事、嫌いなのか?」
半分ほど一気に腹に納めて、落ち着いたのか、思いついたようにバカジが言った。
珍しく鋭いな。
「嫌いではないけど、好きでもないな」
「あの人、ちょっと困った人だけど、イイヒトだぜ?」
「オレ、あいつのことよく知らねぇし」
「ウチのエースなんだって。走りもすげーけど、普段もさ。いろんなこと、さくーっとしちゃうんだって」
「ほうほう」
「聞いてねぇだろ」
「聞きたくねぇし」
む〜、とバカジが黙り込む。
オレが同意をしないから、かな。
どれだけイイヒトですげー人かなんて、言い募られたら尚更腹が立つっての。
あいつの走りなんて高校時代にイヤってほど見せ付けられたし。
今でも走ってるのとか、オレより背が高いのとか、ムカつく要素なんてありまくりだ、バカ。
何より腹が立つのは、あいつがお前で遊んでるってコトだ。
「お前、携帯見たのか?」
「う?」
「送信履歴」
「いや?何で?」
「あ〜、じゃ、いいよ」
「ならいいけど。ゴチソウサマ、うまかった」
他人に使わせて、確認もしないなんて。
オレには考え付かないことだけど、コイツにとっては大したことじゃないらしい。
信用してるから、なのかも知れないけど。
もひもひとチャーハンを腹の中におさめきってから、バカジは携帯を出してきてぽちぽちと、操作し始めた。
「ぅわーっ?!何だこれっ先輩何するんだ〜?!」
皿を引いて洗っていたら、そんな声が。
やっと気がついたのか、バカ。
「ええ?!陣、これ、知ってたのかよ?!」
「知ってたってなんだよ?まさしく、それが送られてきたんだ」
オレのムカつきに気がつきやがれ。
「また〜、もう、変顔の写真、いっぱい撮られるんだよな、あの人に!」
ほうほう、そうかよ。
「“ひとのけいたいでなにしてるんすか〜”っと、送信」
…。
まて。
今の口ぶりだと、しょっちゅう遊ばれてる…訳だよな?
こいつの反応が楽しくてやってるなら、もう、充分に堪能してる筈…だよ、な?
それを。
わざわざ、オレに送ってきたってことは。
「“ビックリさせられただろ?”何だと〜先輩め〜っ」
「バカジ」
「何?」
早島にメールを送っているバカジに声をかけたら、ちょっとビビってた。
ああ“オレといる時に携帯メールするな”とか、そこまで心の狭いことは云わねぇよ、バカ。
「お前、何て云って携帯渡したんだ?」
「え〜と、陣をビックリさせたいけど、いいのが思いつかないっていった」
……。
くそう。
オレ、か。
思いついて歯噛みをする。
ついうっかり乗せられちまった。
コンチクショウだ。
あいつがからかいたかったのは、バカジだけじゃねえ。
オレ込み、だ。
ホントにムカつくあのやろう。
気がついたオレは、皿を割らないように洗うので精一杯だった。