賭けをしてたのは、知ってた。
「今日から毎日外周!一週間、一回も俺に勝てなかったら、イタズラする!」
早島先輩がそう宣言してたから。
今日が期日なのも、知ってる。
「おい、加地、わかってるよな」
って、念押ししてたから。
で。
それで。
今、目の前で起こってるコレは、何?!
物凄い勢いで帰ってきた早島先輩が、クールダウンもしないでゴールを通りこして、水のみ場のこっち――あたしの近くにいた、陣ちゃんに突進してきて。
で。
「よっしゃ、いただき!」
「何?!わっ!」
目の前でキスしてるんだけど!
何?
何が起こってんの?
一瞬固まってた陣ちゃんは、我にかえって早島先輩を殴りつけると、せっせとウガイをはじめた。
「そうくるか、お前はっ」
早島先輩は赤くなった左頬を押さえながら、ゲラゲラと笑いころげてる。
ゼイゼイと息を切らせて、バカジくんが来た。
「なっ!何っ…何やってんすかっ…!」
「イタズラ」
「ダメっすよ!コレは俺のっ」
「だから、イタズラするんじゃん。言ったろ?」
「でも、ダメ〜っ!」
「ダメでも、賭けは俺の勝ち。あ〜、面白かった。ゴチソウサン」
呆然としてる陣ちゃんとダダをこねてるバカジくんを置いて、早島先輩はとってもとっても楽しそうに
「今週は充実した練習できたなあ」
なんて言いながら歩いてった。
早島先輩って…
不思議な人だと思う。