イタズラしちまえ!編 1

 

 

 賭けをしてたのは、知ってた。

 


「今日から毎日外周!一週間、一回も俺に勝てなかったら、イタズラする!」

 


 早島先輩がそう宣言してたから。
 今日が期日なのも、知ってる。

 


「おい、加地、わかってるよな」

 


 って、念押ししてたから。

 


 で。
 それで。
 今、目の前で起こってるコレは、何?!
 物凄い勢いで帰ってきた早島先輩が、クールダウンもしないでゴールを通りこして、水のみ場のこっち――あたしの近くにいた、陣ちゃんに突進してきて。
 で。

 


「よっしゃ、いただき!」
「何?!わっ!」

 


 目の前でキスしてるんだけど!

 


 何?
 何が起こってんの?

 


 一瞬固まってた陣ちゃんは、我にかえって早島先輩を殴りつけると、せっせとウガイをはじめた。

 


「そうくるか、お前はっ」

 


 早島先輩は赤くなった左頬を押さえながら、ゲラゲラと笑いころげてる。
 ゼイゼイと息を切らせて、バカジくんが来た。

 


「なっ!何っ…何やってんすかっ…!」
「イタズラ」
「ダメっすよ!コレは俺のっ」
「だから、イタズラするんじゃん。言ったろ?」
「でも、ダメ〜っ!」
「ダメでも、賭けは俺の勝ち。あ〜、面白かった。ゴチソウサン」

 


 呆然としてる陣ちゃんとダダをこねてるバカジくんを置いて、早島先輩はとってもとっても楽しそうに

 


「今週は充実した練習できたなあ」

 


 なんて言いながら歩いてった。

 


 早島先輩って…
 不思議な人だと思う。

 

 

end