開店顛末記

 

 

 

 …腹へった。


 教室に畳を敷いて、無理矢理作った合宿所。
 布団に寝転がって、天井を見る。

 


 腹がへった。
 このまま耐えて寝るのは、無理。
 非常食に、と、荷物に忍ばせた菓子類は食いつくした。
 抜け出してコンビニに行く…のも考えたけど、見つかった時が面倒。
 リスクしょって行ったところで、食いたいモンがあるとは限らねぇ。

 


 でも、腹がへった。

 


 トランプしつつ、空腹を誤魔化してる長距離メンバーを眺める。
 誰か何か持ってねーかな、とか。コンビニに行く気にならねえかな、とか。
 しばらく眺めていたけど、腹の虫はおさまるどころか動きを活発化させていく。
 無理っぽいな。
 とりあえず、腹へった。
 オレが限界。

 


「じん〜?」

 


 ダラダラと寝転がって、バカジ。

 


「どっか行くのか?」

 


 涼が通訳するように聞いてくる。

 


「調理室」
「は?」
「腹へった。限界。調理室行ってくる」
「はぁ?」

 


 不思議そうな顔をしている連中は、放置。
 オレは腹へったんだってば。
 とにかく、一直線に調理室へGOだ。

 

「意外な展開だよな」
「普通は考えつかないよな」
「調理室っていうから、何かと思ったら」
「持つべきものは、親切な友達だよな」

 


 ふふふふふふふ、と、不気味な笑い声を立てて、背後でうろうろとするオジャマムシ。
 合宿所からくっついてきた長距離のメンバーたち。

 


「何が言いたい」

 


 かん、とフライパンを叩いて振り向いたら、ちゃっかり全員皿もってやがった。

 


「陣、分けてっ」
「くれっ」
「じんちゃ〜ん」

 


 それぞれ好きなことを言いながら、皿を差し出してきやがる。
 くっそう、オレは自分が食いたかっただけ、なんだぞ!

 


「…皿洗い」
「やるっ!やるから、くれ!」

 


 冷蔵庫に残っていたもので作った、ありあわせのチャーハンとスープ。
 不穏な空気が流れてたから、確かに多めに作ったものの…オレの分…
 くそう。
 まずは自分の分を確保して、並んでいる連中に等分。
 フライパンはおいといて洗わせよう。

 


 それが始まり。

 


「…陣〜」
「オレは、減ってない」
「俺、腹減った」
「オレは、へってないんだよっ」
「今夜は開店しないのか?」
「誰が店だ、誰がっ」

 


 味を占めたバカジが、ごろごろとオレの近くで転がる。
 誰がつけたのか“ビストロ陣”なんて呼ばれてみたり。
 ふざけんな。
 何が嬉しくてヤローどもに飯を作らなきゃならねーんだ。
 こっちも練習で疲れてんだよ。

 


 ああ、平和な合宿の夜を返せ……。
 あの時腹の虫さえ我慢できていれば…

 


 調子に乗り始めたバカジにけりを入れて、オレは布団の中にもぐりこんだ。

 

 

end