「あーちゃん先輩、あーちゃん先輩、ハサミかして〜」
春の新人戦っていう小さな競技会の会場で、バタバタとバカジくんがよってきた。
「あれ、あーちゃん先輩は?」
「事務局いったよ」
「じゃ、真奈美でもいいや、ハサミかして〜」
「いいけど、何に使うの?」
競技場でハサミ?
マネジバッグを探りながら聞いたら、バカジくんはにこにこと答える。
「値札切る」
「値札?」
「うん、靴の値札」
はいぃ?
ハサミを差し出しかけたあたし、フリーズした。
今、とんでもない事が聞こえた気がする。
「靴の、値札?!いま、切るの?」
「おう、陣が縁起担ぎするって言うからさ、真似してみた」
ぴきって、場が凍りついたのは、気のせいじゃない。
「お、お前は…」
がっくりした顔の英ちゃん先輩。
うん、あたしでもバカジくんが無謀だって事、わかる。
「バカか、お前はっ」
ごちん、と陣ちゃんがバカジくんを殴りつけた。
「縁起担ぎったって、手入れしてから持ってくるに決まってるだろ!」
「うぇ?」
「サイズ!」
「はい?」
「靴のサイズ!どうせ予備のシューズもないんだろ」
げしって、陣ちゃんがバカジくん蹴った。
「ええと27」
ち、同じかよ。
って舌うちした陣ちゃんは、バカジくんの頭に靴を乗せた。
「使え。オレは予備あるから」
……
こういうところ。
陣ちゃんは、いいって思う。