ただ一刻も長く

 

 

「何、揉めてるんだ?」
「ほら〜、陣きちゃったじゃん」
「あ〜?」

 


 フェンス越しに声をかけたら、バカジがジタバタと足をならした。

 


「明日っな、明日でいいだろ〜?」

 


 昨日の電話で、珍しく練習が早くあがるから、そう言っていた。
 こっちもバイトが休みだと言ったら、グラウンドに来い!と、ダダをこねられて、ワザワザこっちが足をのばしたけど。
 コレは。

 


「せっかく陣も休みなんだよ〜もう、あがっていいだろ〜」

 


 さっさと走ればいいだけ、だと思う。
 多分、ノルマが増やされたんだろうな、と思いながら隣に立つ涼に目で問う。

 


「あ〜今さ、バカジの課題、スタミナなんだよね。監督が調子いいなら追加しとけって」
「トラックじゃなきゃ、ダメか?」
「いや、距離走ればいいけど」

 


 う〜う〜と文句たれてるバカを、ちょいちょい、と指で呼ぶ。

 


「何?」
「走るついでに昼飯買ってこいよ。奢ってやるから」
「え、マジ?!」

 


 ピコン!といきなり機嫌がよくなるお調子モノ。

 


「おお。これ、割引チケットもらってあるからさ。この店じゃないと駄目なんだよ」
「わかった。ここ、な」

 


 財布を渡すと、何やら叫びながら走って行った。

 


「じ、陣?」

 


 あれ、いいのか?と、涼が指差す。
 いいんだよ。

 


「指定した店、今日は改装中で閉まってたから、おっつけ戻るだろ」
「は?」
「私鉄駅の向こうだから、往復走れば距離いってるし」

 


 口をぱくぱくとさせている涼に、

 


「戻ったら、携帯かけるように言ってくれ。じゃ」

 


 そう言って、踵をかえす。
 いつまでもウロウロしてたい場所じゃない。
 ポケットの中の小銭で、学食のコーヒーくらいは飲めるだろう。
 きっとバカみたいに飛ばして走ってんだろうから、褒美にマックでも奢ってやろう。

 


「ったく、さっさと終わらせろって」

 


 たまに時間があう時に、早く会って長く一緒に居たいと思うのは、お前だけじゃないんだぞ、バーカ。

 

 

end