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あのバカ、どこ行きやがった!!
目を離した隙に消えた後輩の加地を探しに、競技場の外に出る。
…ったく、毎回毎回ちょこまかしやがって。
レース前はちょこまかするな!って何度言えばわかるんだよ。
どうせ応援に来てる恋人にべったりくっついてんだろうけどさ。
本音は放っておきたい。呼び出し放送されて焦ればいい。一度痛い目見なきゃわかんねぇんだ、アイツは。
そんな本音を言えない相手…監督に加地の居場所を聞かれたのが運の尽き。
出番が近い奴らの代わりに、仕方なく俺が探しに行く。
つか、イジメてやんねーと気が済まない。
俺様に無駄な体力を使わせた罰だ。
連帯責任で恋人、笠原の野郎もイジメてやる。
……いた。
まだ私服だし、眼鏡までかけてやがる。笠原のか?
あの野郎、大会をナメてやがんな。
「加地!笠原の眼鏡かけていちゃついてる場合じゃねーだろ。アップしとけ!」
パシッと頭を叩くと、加地はきょとんとした顔をして俺を見た。
まるで俺の事をわかってないかの表情。
……恋愛ボケか?
暑さにやられる程、今日は気温高くねぇよな?
もう一度注意してやろうと口を開こうとしたら、加地の方が先に声を発した。
「えー…っと、僕は確かに加地ですが……、君が言ってるのは弟の方かなぁ?」
「え?」
オトート???
落ち着いて見てみれば、顔はそっくりだけど加地より髪が短い。
それに……アイツにはない落ち着きがある。
「あ!君は早島君ですか?新聞でよく拝見してます。弟がいつもお世話かけてます」
にこにこと愛想よく話しかけてくる加地兄。
確か「兄貴は社会人ッスよ」って言ってた記憶がある。
…っていうか俺、年上しかも初対面の頭叩いちまったじゃねぇか。
「すいません!俺、失礼な事しちまって!」
「いいんですよ。間違えただけなんですから」
ほんわかしたしゃべり方。
加地を柔らかくしておっとりさせた感じだな。
「それより」
「え?」
「うちの弟は、誰といちゃついてるんですか?」
うっ……
笑顔だけど、明らかに声が低音になってる。
「あー、いや、ちょっとからかっただけっすよ」
流石に男といちゃついてるなんて言えねぇ。
いくらバカなアイツでも、カミングアウトまではしてないだろう。
俺の失言だし、たまには加地をかばってやる。
「そうですか。ならいいんですけど、最近様子がおかしくて気になってたんです。可愛い弟に変な虫がついたらどうしようかと……」
もうついてマス。
貴方よりでかくて眼鏡をかけた可愛いげのない虫が。
……なんて言えねぇよなぁ。
つか、もしかして加地兄はブラコンか!?
普通の兄弟なら「可愛い」なんて表現使わねぇし、わざわざ試合を見に来る事もそんなにないと思う。
「あれぇ?にーちゃんと早島先輩、何してんすかぁ?」
噂をすれば、本物が虫を連れて戻ってきた。
少し汗をかいてるトコを見ると、外でアップしてきたようだ。
「何してるじゃねぇよ。監督がお前呼んでっから探しに来たんだろうが」
「うぇ?!マジっすか!?」
焦った顔して控え室に走って行こうとする加地の首根っこを加地兄が掴んだ。
「翔っ、先輩に迷惑かけたんだから謝るのが先っ!」
「…う、うっ。……早島先輩、すいません」
加地は兄貴に頭が上がらないのか、言われるままに素直に俺に頭を下げた。
なんつーか兄貴っていうより、母親っぽいな。
「じゃ、陣行ってくるっ」
「あぁ、行ってこい」
行ってらっしゃいのキスでもしそうな空気を出して、二人は名残惜しそうに離れて行った。
あー、むず痒い。加地兄がいなかったら邪魔してやるのに。
笠原が不機嫌になるまでからかってやるのに。
「じゃ、俺も行くんで」
「早島君」
「はい?」
「連覇目指して頑張って下さいね」
「あ…、はい。どうもっす」
へぇ、俺が連覇かかってる事知ってんだ。
なんとなく嬉しくなっちまって、さっきまでの苛立ちが消えていた。
年上だけど、癒し系キャラだな。
加地と同じで、からかい甲斐もありそうだ。
「オニーサン」
「ん?」
「俺が連覇したら、ご褒美くれます?」
加地兄はまたきょとんとした。
初対面なのにこんな事言われたら、それが当たり前の反応だろう。
「連覇したら、貴方の時間下さいよ」
俺が要求を告げると、彼は「へ?」と首を傾げた。
笠原が「やれやれ」って表情するのがわかったけど無視してやった。
おもちゃは多ければ多い程いいのだ。