第2話

 

 

 ――― 本命!?
 思わず飲んでた炭酸を吹き零しそうになった。
 陣の口……違う、メールから「本命」なんて単語出てくるとは思わなくて、誤字かと疑った。けど、あの陣が誤字打つ訳もない。
 確かに高校の時は彼女いたけどノロケなんて一言も聞いた事ねぇし、ましてや本命なんて言葉初めて聞いたぞ。
 ……なんだよ、本命って……?
 キリキリと胸が痛くなった。
 ったく、気になって仕方ねぇじゃねぇか!
 今ここにいたら、絶対聞くまでつきまとってやるのに〜〜
 ……でも、聞く勇気ないかも。
 俺の知らない人だろうし、聞いちゃったら俺ヘコんじゃうもん。
 打たれ弱いんだよな、俺。
 いや弱気はダメだ!本人が目の前にいるならまだしも、目の前にあるのは携帯だけだ。
 ここは聞いておくべきだ。俺の今後の為にも。
 鉄拳制裁は覚悟だけどな!

 

 
 題名 : なにそそれー
 本文 : 陣もふられたのかよ?つか、ほんめいってなに?

 

 

 誤字…っていうより、打ち間違い、だな、明らかに。
 ものすごい速さで返ってきたメールを、溜め息交じりに確認しようとして、本文を読む前に溜め息が出た。
 読めるメールを寄越せよ。
 しかも、食い付くトコはそこかよ。
 自分から餌撒くとは…疲れてきてるなぁ、オレ。うっかり打った“本命”の二文字を憎々しく思いながら、返信した。

 


 題名 : 人のメールを読め
 本文 : 読みにくい。
       追及するな。
       今回だけ聞いてやる。さくっと語りやがれ。

 

 


 ……う?人のメールを読め???
 首傾げつつ、一個前のメールを読み返してみる。
 あ〜〜〜漢字変換かぁ。うぅっ、俺変換苦手なんだよなぁ。
 どうせ漢字間違えたら突っ込まれるだろうし。
 素直に言う事聞くのも面白くないし、それはスルーしてやる。
 っていうか、本命の事はどこ行ったんだよ!?
 追求するなって、陣が本命とか送ってくるからじゃん!
 追求するに決まってんだろうがぁぁ!
 ……落ち着け、俺。
 すーはーと深呼吸を何回かしてから、また携帯と向き合う。
 今回だけ、かぁ。毎回そう言われてたけど、なんだかんだ言っても陣は俺の話ちゃんと聞いてくれるんだよなぁ。
 さくっと語って、本命の事は後で突っ込めばいっか。

 


 題名 : やだよー
 本文 : 陣のいうことなんかきかねーもん
       へんかんめんどー   
       きょにゅーのかのじょにふられた  
       つきあってくれってむこうからいってきたのに   
       これでさくっ?

 

 


 どうせとんでもないスピードで返信が入っているのは、想像がついた。
 だとしたって、イチイチそれにあわせてやる義理はない。
 バカジなら尚更。そう、尚更。
 今更面倒を見てやれるわけじゃない。甘やかしたってろくなことない。
 自分でそう言い聞かせて、必要な電話を済ませる。バイト先のシフト、いい加減聞いておかないと。
 案の定、電話を切ると同時にメールが入る。
「はぁ!?」
 訳の分からない平仮名だらけの文に、声が出た。
 ちっくしょう、嫌がらせ入ってるだろ!?きょにゅーって何だ…?
 ……ああ、巨乳、か。
 くそう、だからてめーはバカジだってんだよ。

 


 題名 : 相変わらず馬鹿だな
 本文 : 読めねぇだろうが、バカジ。
       乳に釣られて、ふらふらしてたんだろ。

 

 

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