第3話

 

 

 マネージャーから明日の練習場所変更のメールを読んでる途中に、陣からのメールが届いた。
 読んだ途端、俺の顔はピキリと引き攣った。
 ふつふつと怒りが湧いてくる。
 バカって、漢字で言われると余計ムカツク!
 乳ってなんだよ〜「にゅう」だか「ちち」だかわかんねぇよ!
 つーかさぁ、ふらふらしてるってなんだよ!マジムカツクんだけど!
 マネージャーに返信するより先に、陣からのメールの返信を打たなくちゃイライラが止まらねぇよ!

 

 
 題名 : ばかっていうなー
 本文 : よめない陣のほうがばかだ!   
       ふらふらなんかしてねーよ    
       ふらふらしてんの陣の方だろー    

 

 


 ……自分を棚上げできるおめーの棚は、広くて頑丈だな、おいっ
 構わなきゃ、いいんだ。
 それはわかってる。
 何通かメールを無視すれば、そのうち諦めるだろう…けど。
 フラフラって何だ!?誰のせいで、オレがふられたと思ってやがる!?
 コレは、ムカつくだろう、コンチクショウめ。

 


 題名 : Re:ばかっていうなー
 本文 : 誰がふらふらしてんだよ!?

 

 


「誰って、お前しかいねぇじゃんっ!」
 うっかり大声出しちまって、一階の居間にいる親父に「近所迷惑だ!」って怒られちまった。くそー、陣のせいだっ!
 素っ気無い一行だけのメールに、更にイライラ加速。
 陣になんかにわかってたまるか……!!
 彼女といてもお前の事を考えちまってたから、誰と付き合っても上手くいかねぇんだぞ!
 誰かと付き合ってれば、誰かに本気になれれば、こんな妙な気持ち消えるんじゃねぇかと思ってたんだぞ!
 ……結局、同じこと繰り返してばっかだけど……
 俺が努力してる時に、二股なんてかけてる陣が悪いっ!
 くっそぉ〜〜〜〜〜〜!!

 

  
 題名 : だってさー
 本文 : ふたまたかけてバレたんだろ?
       ふらふらしてんじゃん 
       ほんめいがなくぞ 

 

 


「しちご三十五、しちろく四十二、しちしち四十九…」 
 落ち着け、オレ。落ち着け。
 勢い余って床に投げつけた携帯。着信してるのはわかってたけど、とりあえず九九を唱える。
 何がムカつくって。内容そのものよりも、送り主がバカジだってところだ。
 オレのジュンジョー返しやがれ。
 なんだって、こんなバカに惚れてるんだオレは…。
 深呼吸をしてから、届いていたメールをみる。
 …二股、かよ。お前の中ではそういうことになってたか。ホントに人の話し聞いてねぇし、勝手に話し決めてるし。
 変わんねぇよな。

 


 題名 : 勝手に決めるな
 本文 : 付き合ってんのは常に一人だけだ。
       本当に相変わらずだな、お前。

 

 


 本当に相変わらずってなんだよ。
 全然会ってないくせに、話してもいないくせに、俺が髪伸ばしてんのも知らないくせに。
 長距離のタイムだって伸びてんだぞ!駅伝部の切り込み隊長候補だぞ!……それから、えっと、うーーん……とにかく、今の俺の事知らないくせに、よく言えたな!いや、メール打ったな!
 ……っていうか、俺も今の陣の事知らない、な。
 なんも、知らない。
 陸上を辞めた陣が、どんな大学生活送ってるのか。
 陣の事だから真面目に講義は受けてんだろうけど、それ以外の事は想像もつかない。
 走らなくなった今は、何やってんだとか。
 どんな彼女が隣にいたとか……
 やっぱ、陣の言う通り俺は相変わらずかも知れない。
 相変わらず陣の事が気になって仕方ねぇよ。
 ……うっ、ちょっと泣きそうになっちまったじゃねぇか。
 何もかも陣が悪いっ!

 


 題名 : あのさぁ
 本文 : あいかわらずってなんかいもいうなよ  
       いまのおれのことしらないくせに   
       おれもいまの陣のことしらねーもん 

 

 

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