だから、よお…。
メール読んだ瞬間に、ベッドに倒れこんだ。
メール打ってるところが想像できる。むかっ腹立てながら半べそってところか。
会ってなくても気にしてればわかることなんて、たくさんある。
髪が伸びたとか。一瞬オレンジにしてた時があるとか。監督の指導方法とイマイチあってなさそうだとか。フォームがキレイになったとか。タイムが良くなったらしいとか。ほとんど途切れずに彼女がいる、とか。
プチストーカーかよ、オレ…自分で数え上げてて情けなくなった。
それでも確かに、向こうは“今のオレ”は知らない、か。
あんまり知られたくもないけど、な。
題名 : 確かにそうだ
本文 : メールに成長の跡が見えないから、うっかりしてた。
悪いな。
勝った……!
陣が「悪いな」って言った!俺の勝ちっっ♪
口では勝てなくても、メールだったら勝てるんだなぁ。
口喧嘩しても陣に「バカジの分際で〜」って言われると、なんも言い返せなくなってたもんな、俺。
堪えてた涙も、すっと引っ込んだ。
俺、成長してるじゃん!
なんか文字だけじゃ物足りない。会話もしたくなって来た。
でも「会いたい」なんて言えねぇ。
どの顔下げて、そんな事言えばいいんだよ!?
ぜってー無理!!
そんなこっぱずかしい事なんて言ってたまるか!
でも会いたいと思っちまったら止まらない。
俺は一度走り出したら止まらないんだよっ!
こうなったら、会えるような方向に持っていってやる。
自然に、自然に、だ。
題名 : わかればいい
本文 : つかガッコきてんの?
ぜんぜんあわねーじゃん
……うん、その厭味が通じないトコが、ヤツなんだけど。
返ってきたメールを見て、苦笑い。
顔をあわせてならともかく、メールでは面倒でとやかく言う気も失せてくる。
返信を打ちながら台所をうろついていたら、家族に「久しぶりの光景」だと、笑われた。
題名 : 失礼な奴だな
本文 : 講義には出てる。
お前がグランドの方に居ついてるからじゃないのか?
ぴんぽんぴんぽーーん♪大正解っ。
俺、必須科目以外はグラウンドか部室にいるもんなぁ。天気いい日は講義より外にいたくて、代返頼みまくってるし。
……って、行動パターン読まれてんじゃん、俺。
この辺はさすがとしか思えねぇ。
よし、ここからが本番だ。
陣が俺に会いに来たくなるような文章にしてやるんだ。
自然に、自然に、っと。
題名 : うん
本文 : だいたいグラウンドにいるぞー
陣もくればいいじゃん!
涼たちもあいたがってたぞ
だから、涼には講義で会ってるっての。呑みのお誘いも涼がもって来てる。学食でも会うし、お前の話も涼に聞いてるっての。
口の中で文句たれながらメールを返す。
テレビを観ていた家族が、くすくすと肩を揺らした。
「…んだよ?」
「だって、高校生の時はよくそうしてたんだもん。最近はなかったけど。ハタで見てると面白いのよ、百面相しながらのメール」
そりゃ、最近はほとんどメールをしてない。その上、こんな速度で訳わかんねぇメール送ってくるヤツもいない。
だー、もう!
仕方ねぇだろうが。自分で決めたとはいえ、競技からは足洗ってんだし。未練がましくグラウンドに行くのは性に合わない。他の奴らと走っているバカジを見るのは、まだちょっと耐えられそうにない。
次が――いろんな意味での次、夢中になれることとか惚れた相手だとか、さ――見つかったら、違うのかもしれないけど。
今のオレには、どれも無理。
彼女でも出来たら、何か違うかと思って申し込まれるたびに付き合ってはみるけど。だけど何にも変わりはしない。
ほとんど毎回同じことの繰り返し。
くそう。何でオレが今、こんなこと考えなくちゃなんないんだ?
バカジのせいだ。
今更、こんなメール送ってくるからだ。
題名 : Re:うん
本文 : 講義で会える。
今更行ってどうするよ