第4話

 

 

 だから、よお…。
 メール読んだ瞬間に、ベッドに倒れこんだ。
 メール打ってるところが想像できる。むかっ腹立てながら半べそってところか。
 会ってなくても気にしてればわかることなんて、たくさんある。
 髪が伸びたとか。一瞬オレンジにしてた時があるとか。監督の指導方法とイマイチあってなさそうだとか。フォームがキレイになったとか。タイムが良くなったらしいとか。ほとんど途切れずに彼女がいる、とか。
 プチストーカーかよ、オレ…自分で数え上げてて情けなくなった。
 それでも確かに、向こうは“今のオレ”は知らない、か。
 あんまり知られたくもないけど、な。

 


 題名 : 確かにそうだ
 本文 : メールに成長の跡が見えないから、うっかりしてた。
       悪いな。

 

 


 勝った……!
 陣が「悪いな」って言った!俺の勝ちっっ♪
 口では勝てなくても、メールだったら勝てるんだなぁ。
 口喧嘩しても陣に「バカジの分際で〜」って言われると、なんも言い返せなくなってたもんな、俺。
 堪えてた涙も、すっと引っ込んだ。
 俺、成長してるじゃん!
 なんか文字だけじゃ物足りない。会話もしたくなって来た。
 でも「会いたい」なんて言えねぇ。
 どの顔下げて、そんな事言えばいいんだよ!?
 ぜってー無理!!
 そんなこっぱずかしい事なんて言ってたまるか!
 でも会いたいと思っちまったら止まらない。
 俺は一度走り出したら止まらないんだよっ!
 こうなったら、会えるような方向に持っていってやる。
 自然に、自然に、だ。

 


 題名 : わかればいい    
 本文 : つかガッコきてんの?
       ぜんぜんあわねーじゃん  

 

 


 ……うん、その厭味が通じないトコが、ヤツなんだけど。
 返ってきたメールを見て、苦笑い。
 顔をあわせてならともかく、メールでは面倒でとやかく言う気も失せてくる。
 返信を打ちながら台所をうろついていたら、家族に「久しぶりの光景」だと、笑われた。

 


 題名 : 失礼な奴だな
 本文 : 講義には出てる。
       お前がグランドの方に居ついてるからじゃないのか?

 

 


 ぴんぽんぴんぽーーん♪大正解っ。
 俺、必須科目以外はグラウンドか部室にいるもんなぁ。天気いい日は講義より外にいたくて、代返頼みまくってるし。
 ……って、行動パターン読まれてんじゃん、俺。
 この辺はさすがとしか思えねぇ。
 よし、ここからが本番だ。
 陣が俺に会いに来たくなるような文章にしてやるんだ。
 自然に、自然に、っと。

 


 題名 : うん
 本文 : だいたいグラウンドにいるぞー
       陣もくればいいじゃん!
       涼たちもあいたがってたぞ 

 

 


 だから、涼には講義で会ってるっての。呑みのお誘いも涼がもって来てる。学食でも会うし、お前の話も涼に聞いてるっての。
 口の中で文句たれながらメールを返す。
 テレビを観ていた家族が、くすくすと肩を揺らした。
「…んだよ?」
「だって、高校生の時はよくそうしてたんだもん。最近はなかったけど。ハタで見てると面白いのよ、百面相しながらのメール」
 そりゃ、最近はほとんどメールをしてない。その上、こんな速度で訳わかんねぇメール送ってくるヤツもいない。
 だー、もう!
 仕方ねぇだろうが。自分で決めたとはいえ、競技からは足洗ってんだし。未練がましくグラウンドに行くのは性に合わない。他の奴らと走っているバカジを見るのは、まだちょっと耐えられそうにない。
 次が――いろんな意味での次、夢中になれることとか惚れた相手だとか、さ――見つかったら、違うのかもしれないけど。
 今のオレには、どれも無理。
 彼女でも出来たら、何か違うかと思って申し込まれるたびに付き合ってはみるけど。だけど何にも変わりはしない。
 ほとんど毎回同じことの繰り返し。
 くそう。何でオレが今、こんなこと考えなくちゃなんないんだ?
 バカジのせいだ。
 今更、こんなメール送ってくるからだ。

 

 
 題名 : Re:うん
 本文 : 講義で会える。
       今更行ってどうするよ

 

 

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