第5話

 

 

「だーかーらー、講義じゃ嫌だっつーの!」
 わからずやなメールの画面を「えいえいっ」と指で弾く。
 講義じゃ顔合わせるだけで、会話なんて出来ないじゃんか。
 部員じゃなくても、グラウンドに来るくらいいいじゃん!
 高校の時みたいに、外で陣と会話したいっつーの。
 ベッドにゴロゴロして、む〜〜っとしばらく考えていい事を思いついた。
 そうだ、アレだ。アレは陣じゃなきゃ無理!
 コレを送れば、陣が来てくれるかも知れないっ!
 俺ってば、天才じゃね?

 


 題名 :          
 本文 : ごはんくいたい!

 

 


 ……。
 何だこれは。この流れで、何でコレが出てくる?
 今、ヤツがどこにいるのか知らないけど、返す言葉はこれ以外ない。

 


 題名 : はあ?
 本文 : 食ってこい

 

 

 通じてねぇぇぇぇぇぇぇ!
 ごはんっていえば、アレだろ!?アレっきゃねぇだろ!?
 合宿の時に陣が作ってくれたオムライスだろっ!
 あれ、めっちゃうまかったんだよなぁ……
 思い出すだけで涎が出そうになる。
 夕飯だけじゃ足りなくて、カップ麺やお菓子で空腹を満たそうとしてた育ち盛りの俺達の救世主、名付けて《ビストロ陣》
 シェフの陣が気が向かないと開店しないという幻の名店。
 あの陣が料理上手だったのも意外だったけど、味がまたも意外だった。味付けが絶妙で、めちゃめちゃうまい!
 いろんな物を作ってくれたけど、オムライスが一番好きだった。ふわふわ玉子の上にケチャップで絵を描くのも好き。
 誰にも取られたくなくてケチャップで「おれの」とか描いたりした俺を、陣は冷たい視線でこう言った。
「おれの、じゃ全員に共通するだろ」
「……はぅっ!?そっか、しまったぁ!」
「やっぱりバカジだな」
「う、うっせー!」
 持ってたケチャップに圧力加えちゃったせいか蓋が取れて、びしょっと俺と陣の顔に飛び散った。
「てめぇ、バカジ。いい度胸だな」
「ごっ、ごめん!陣っ。わざとじゃ……いたぁっっ!」
 ケチャップを拭く前に、陣からの鉄拳制裁。
 痛かったけど、こんな事も嬉しかったりした。
 合宿中は朝から晩まで練習だし、テレビも見れないのがキツかったけど、《ビストロ陣》が開店するから高校時代の合宿は好きだった。
 陣のオムライスが食べられる合宿が、朝晩陣と一緒にいられる合宿が好きだったんだ。

 


 題名 : ちがう〜
 本文 : おむらいす!    

 

 


 返ってきた短いメールに、首をかしげた。
 オムライスっていうと、あれか?合宿の夜食で作ったやつか?
 アレもなぁ…マネジが料理できるやつなら良かったのに。いや、出来なくはないけど独創的な味覚のヤツで。
 何でもいいからとりあえず腹に入れば!っていう時ならともかく、ちょっとはマシなもん食いたきゃ、自分で作らなきゃなんなくって。作ると何故かわらわらと食うヤツが増えてって。
 っていうか、だから何だ?

 


 題名 : Re:ちがう〜
 本文 : 合宿で作ったヤツか?
       それがどうした

 

 

 そうそうそう!わかってくれた!……でも、それがどうしたじゃないってば!
 なんでこれでも「仕方ねぇな、作りに行ってやるよ」って言ってくんないんだよ?陣のあほ!鈍感っ!
 う〜〜もっとストレートに言うべきなのか?
 あ、会いたい、って……?
 無理!無理!!無理っっ!!
 どすんどすんと、枕を叩いてその考えを打ち消す。
 このままこの話題で押すしかない。これっきゃねぇんだ。
 うを、なんか緊張するぞ。
 携帯持つ手がふるふるしてきたぞ。
 ますます意識しちゃって来たじゃんか!
 一文字打っては消し、二文字打って一文字消して。短い文章なのにやけに時間かかった。
 メールの絵文字は笑ってるけど、俺きっと変な顔してる。

 


 題名 : うん    
 本文 : たべたいからこい 

 

 

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