来い、ときたか、バカジの分際で!作りに来い、ってか!?
話があっちこっち行きながらも、妙にしつこいと思ったら、何だよ、それは。
ふられた彼女の話、まだ何か語り足りないのかと、痛む心で付き合ってやってれば、それかよ!?
題名 : ふざけんな
本文 : なんでわざわざ!
ふざけんな、かよ……。人が手に汗かきながらメール打ったっていうのに!大人しく来いっていうんだ!
「超ムカツクっ!」
枕に向かって携帯を投げたら、バウンドして床に音を立てて落ちた。
「やべっ!壊れちゃうじゃん!」
慌ててベッドから手を伸ばすと、違うモノが手に当たった。
「…………あ」
それは、高校時代の長距離仲間とお揃いで買った時計。
俺は今でも競技会で使ってるけど、陣はまだ使ってるのかな……唯一お揃いのモノ。
これで捨てたり無くしてたりしたら殴るけどな!
っていうか、覚えてっかな。この時計を使った練習法。
この練習法では陣に勝てた試しがなかった。
アイツの背中を抜く為に、がむしゃらに走った高校時代。
――― 今だったら、勝てる気がする。
拾い上げた携帯は、端っこに小さな傷がついただけだった。
そして俺は、一気にメールを打った。
面倒臭かったけど、漢字変換だってした。
今度は手も震えずに、速攻送信ボタンを押した。
これならどうだよ、陣。
携帯を机の上に置いて、腕時計をセットした。
題名 : 挑戦状
本文 : PM9時 陸上競技場 5000
…コレは、アレだよな。
ディスプレイに現れた文字を見て、一旦、携帯を閉じた。
もう一度携帯を開いて、メールを確認する。
間違い、ない。高校時代にはよくあった呼び出し。一斉送信じゃないトコを見ると、オレだけ、か。
「ざけんなよ。世話の焼ける」
呟いて、机の引き出しを開ける。
一番上に放りこんだままになっている、デジタル腕時計。高校時代に部活の仲間で買って、秒まできっちり揃えたやつ。
時計の時報が、スタートの合図。
午後九時スタートで、陸上競技場へ5000メートル走って来い、っていう、挑戦。
戻る筈のない時間が、巻き戻っていく感覚。
無視する事だって出来る。もう一度『ふざけんな』そうメールを返すことだって。
頭ではそうわかっていても。そうした方が自分のためだっていう自分自身の突っ込みも、わかっていたけど。
仕方ないじゃないか。
バカジが、オレを呼んでいる。
そして、走れ、と、言う声に抗えないのだから。
「もう少し考えろっての」
時刻表示を確認して、焦った。シューズを探していたら、コンタクトを探している時間は、ない。知っている道だ、問題はないだろう。そう踏んで、眼鏡を外す。
ギリギリの時間で準備を整えて。
高校時代は負けたことのない練習方法だけど、今ではもう、無理だろう。オレにはブランクがある。ハンデを考えれば、完走だってあやしいもんだ。
だけど。
コレで、色んなことが吹っ切れる気がしたんだ。
ストレッチをして顔を上げたら、腕におさまった時計が時間を告げた。