走れ、走れ、走れ。
走ってる間は何も考えないで、ただゴールを目指して走るのが俺の走り方。
ゴールは陸上競技場だけど、その場所を目指してる訳じゃない。
俺は、陣っていうゴールを目指して走ってた。
こうなったら走るっきゃねぇじゃん。
こうなったら言うしかねぇじゃん。
こうなったらケジメつけるっきゃないじゃん。
同じこと繰り返してても、結局また元に戻っちまう。
だったら、戻れないようにしちまえばいい。
「好きだった」って言って、鉄拳制裁くらって終わりにしちまえばいいじゃん。
そしたら、きっともう同じ事は繰り返さない。
ちくしょー、なんで俺振られる為に走ってんだよ!
振られたら、今度から誰に慰めてもらえばいいんだよ!
陸上競技場は、真っ暗だった。
ぽつんと外灯がついてるだけ。
「陣っ!」
名前を呼んで陣の姿を探すけど、陣どころか誰もいない。
……まだ着いてないのか。
「遅い」
「なんだよ、一分も差がねぇじゃん!」
「いい加減、オレに勝ってみやがれ」
「ぜってー勝ってやる!」
そんな昔のやりとりを思い出しながら、時計を見上げた。
「勝ったじゃん、俺……」
初めて勝った喜びよりも、陣がココにいない事が淋しい。
その前に、この勝負が成り立ってんのかもわかんねぇ。
メール無視されりゃ、終わり。
なんて返信が来るのか怖くて、携帯は家に置いて来た。
「試合放棄されちゃった、かな……」
陣がこんなに遅いわけがない。
外灯に照らされた時計がゆらゆら揺れて見えてきて、慌てて腕で目をこする。
泣くな、俺っ。それこそカッコ悪りぃじゃんか。
「好きだったんだぞ、陣……」
素っ気無いトコも、クール気取ってるトコも。
俺の事バカにして、ちょっと反論するとすぐ殴るトコも。
「つか、Mじゃん、俺……」
ガシガシと髪を掻いて、しゃがみ込む。
……でも、知ってるんだ。
キツイ口調の中に、優しさがあるトコも。
怒る理由も、ただ怒るだけじゃなくて。
だいたい俺が原因だったってコトも知ってる。
陣に構われたくて、わざとバカやった事だってある。
そうすれば、陣が俺を構ってくれるから。
だから、俺は……
当時は自覚がなかったにしては、酷すぎる。
今考えれば、母親に甘えたくて駄々こねる子供じゃん。
気を引きたくて、わざと悪さして、怒られて。
で、優しくされれば嬉しくてたまんなくって。
「どうしょもねぇ〜〜〜」
こんなんじゃ、陣に愛想つかされても当然だ。
はぁ、っと溜息ついて地面に大の字になる。
コンクリートの冷たさが、身に沁みるぜ。ちくしょー
失恋、かぁ……。これも、ケジメか。
じわりと目にまた涙が浮かんで来た時、地面に微かな足音が響くのが聞こえた。
「……陣っ!?」
腕ジャンプで立ち上がって、周りを見渡す。
聞こえる、誰か走ってくる。
泣くな、俺。
まだ、泣くな。
パンッと両頬を叩いて、じぃっとその方向を見詰める。
足音が大きくなって来る。近付いて来る。
その人物の姿がはっきり見えた時、俺はまた泣きそうになるのを堪えるのが大変だった。