「気になるじゃんか、ちゃんと話せよー」
話すまで離れないぞ、と。
多分そういう顔をしてるんだろう雰囲気で、バカジはじーっとこっちを見てる。
わかってるさ、お前がこうと決めたら引かないってことくらい。何が何でも聞き出す気になってるんだろ。
「だから、さ…大学入試の後…自由登校期間に、救急車に乗ったんだよ」
「陣が?」
「そう、オレが」
「なんで」
なんで、か。
それはオレが聞きたかったな。
なんで、オレなのか。
「肺に、穴が開いたから」
「は、はい?」
素っ頓狂な返しに、苦笑いがこぼれた。
話させておいて、話についてこれてないか?
「肺ってわかってるか?」
「わかってる!呼吸する肺だろ?って、なんで穴が開くんだよ!?死んじゃうじゃんか!」
「ちっせー穴だと、死なねぇんだよ。風船みたく縮んで呼吸は出来なくなるけどな」
話してるうちに、バカジの手から力が抜けるのがわかる。
おいこらバカ、ちゃんと聞けよ。お前が話せって言ったから話してるんだ。
ぽつぽつとオレが話すのを、バカジはわかっているのかいないのか。
ただ、黙っていた。
「右の肺にな、穴が開いて、3分の1に潰れてた。気がつくのが遅くて、水が溜まってて、マジやばかったみたいだな。そういうの、気胸っていう病気らしい。リハビリすればスポーツも出来るらしいけど、なりやすい体質ってのがあって、オレはビンゴなんだってさ。再発率は50%で、あんまり走るのはお勧めしないって、宣告されたわけ」
「だから、なのか?」
「あー?」
「だから、やめたのか?」
何を、とは言わなかったけど、わかった。
走るのを止めたことを、バカジは今でも惜しんでくれている。
「……色々あるけど、ま、健康第一ってことで」
それだけ言って手を引き抜こうとしたら、逆にぐいっと引き込まれた。バランスを崩したオレは、バカジに抱きとめられる形になる。